次世代放射光施設の整備計画について

 2018年7月、文部科学省は「次世代放射光施設」の整備・運用に当たるパートナーとして、一般財団法人光科学イノベーションセンターを代表機関に、宮城県、仙台市、東北大、東北経済連合会を選定しました。東北では2014年度から、地域の産学官が一体となって放射光施設の誘致に向けた取り組みを進めてきました。次世代放射光施設の設置場所が、東北大学青葉山新キャンパスに決定したことにより、宮城県内および東北の学術・産業への大きなインパクトが期待されています。
 施設は2019年度に着工、2023年度の稼働を目指しています。

次世代放射光施設 SLIT-J

放射光施設とは何か

 放射光施設とは、光速近くまで加速された電子が放つ極めて明るい光を利用して、あらゆる物質を原子レベルで観察することができる、いわば「巨大な顕微鏡」のようなものです。物質の状態をナノメートルレベル(10億分の1メートル)で分析することで、航空機や自動車などに幅広く利用される炭素繊維や、燃料電池、電子部品、創薬、バイオなど、さまざまな分野での製品開発に「放射光」は使われています。

なぜ国内に次世代放射光施設が必要なのか

 加速器開発技術の進歩によって、放射光施設の性能は年々進化しています。海外では2010年以降、科学技術立国を目指す国々が最新技術を搭載した「次世代」型の放射光施設を次々に建設し、光の明るさで日本を大きく上回る性能の施設が登場してきました。

 国内では1997年に供用が始まったスプリング8(兵庫県佐用町)をはじめ9つの放射光施設が稼働していますが、産業利用ニーズが高い軟X線領域で高輝度の光を発揮する放射光施設が存在しないため、このままの状態では、日本の科学技術研究やものづくり産業の国際競争力低下が危惧されることから、国と地域が連携して次世代放射光施設の整備を進めることとなりました。

放射光施設を拠点とした「リサーチコンプレックス」形成へ

 フランスなどの先進地域では、放射光施設の周りに企業や学術機関の研究開発拠点が集積した「リサーチコンプレックス」が形成されております。次世代放射光施設の設置予定地である東北大学青葉山新キャンパス周辺においても、今後、産学官金の連携を通じた一体的な取り組みにより、企業や学術の研究機関や生産施設のさらなる立地促進・集積を進め、次世代放射光施設を中核とした「産学共創の拠点」を構築していくこととしています。

期待される地域経済への波及効果

 産学官金のパートナーシップによる次世代放射光施設の整備とリサーチコンプレックスの形成は、産業界のものづくりと学術の先端研究の距離を縮めるとともに、より大きな経済波及効果をあげることが期待されています。東北経済連合会による調査結果(2018年8月)によると、次世代放射光施設の設置による経済波及効果(地域経済への波及効果と全国規模の市場創出効果の合計)は、10年間で1兆9,017億円、20年間で3兆9,338億円と試算されています。また、宮城県全体における雇用創出効果は1万9,123人、税収効果は99億円とされています。

東北・新潟発の新産業創出を目指して

 次世代放射光施設の設置によって、国際的な交流人口の拡大や地域イメージの向上、理系人材の定着、高度人材集積のほか、地元企業の加速器関連産業への参入、新製品・新技術の研究開発の進展などにより、地域が大きく発展することが期待されます。
 また、宮城県や仙台市では産学官金の集積・発展に向けて、様々な支援制度を予定しています。例えば、宮城県では立地企業奨励金による助成や、本社機能の移転・拡充に対する税制優遇など、各種優遇制度を活用した支援を実施することとしています。仙台市では、次世代放射光施設を利用し、自社商品の研究開発や事業化に取り組む中小企業に対する開発助成金の創設などを予定しています。さらに、東北大学では、学内の産学連携施設等を活用するとともに、整備用地の隣接エリアに放射光を利用する企業の拠点を設置できるサイエンスパークを整備することとしています。

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