講師:株式会社 東北地域環境研究室 代表 志賀 秀一氏
マスターコースのキーワードにもなっている“
ネットワーク”。宮城県の南三陸町は、震災前からよその地域とつながることを前向きにやっていた町でした。
地震で阪神や中越に被害が出たとき、南三陸町が手伝いに行っていました。
東日本大震災のときには、その恩返しということで、それらの地域からたくさんの方が南三陸町に支援にきていただきました。
南三陸町は、よそとつながる力を持つ、よそとつながることは大切だという価値観を持っていたんですね。自分たちの地域のレベルは、他の地域と比較してみないと分かりません。
普段から、よそと話をしたり、いろいろ見せてもらったりすることによって、自分の大きさが分かります。
よそとつながるということは、一方通行ではないわけです。お互いに思い合える関係をつくるために知恵を働かせなければいけません。
思いを込めた言葉で相手に伝える。こういうことを地域がどれだけできるかにかかってきます。
震災のような大変なときに乗り越えられるのは、平時をちゃんとやっていることのあらわれではないかと思います。
南三陸町では、平時からいろいろやってきたキーパーソンがいらっしゃいました。
地域のコミュニティーというと、わずらわしいところもあるかもしれませんが、
何かあったとき、誰にも知られていなくて、忘れられている人がいる地域社会というのは、たいへん危ないと思います。
そういう方々の存在を認める必要もありますし、リーダーシップをとる方の人柄とか、いろいろあるでしょうが、いざというときに力を発揮できるのは、
日頃の積み重ね、つまり日常をどれだけレベルアップさせていくかということにかかっているのではないでしょうか。
報告:牧之通り組合長 中島 成夫氏
コメンテーター:作新学院大学 経営学部 教授 橋立 達夫氏
まちづくりというものは、あまり難しく考えちゃダメです。簡単な話なんです。
自分たちのまちでしょう?誰のまちでもないでしょう?そこに住んでいる人間がやるよりほかないんです。
そこに住んでいる人間が、住みやすい、誇りの持てるまちをつくればいいんです。それが基本です。
牧之通りの場合は、人が住んでいる居住区です。居住区というものは、まちの息遣いが感じられなかったら、まちじゃないでしょう。
あくまで人が住んでいるんです。それをまず考えなければダメだと私は思っています。
組織というものは、できたときが一番元気で、長い時間が経つとだんだん衰えてきます。
どこのまちづくりでも最初は元気がいいんだけれども、だんだん変わっていってしまうところが多いんです。
それを防ぐためのポイントが3つあります。1つは経験です。経験を積んで、その経験から次の段階を考える。表彰を受けるというのも経験でしょう。
自分たちの考えたことが実現するというのが最初の経験で、それが表彰を受けるということで元気が持続します。
2つ目は学ぶことです。最初にできたもので満足しないで、新たに学ぶ何かをすることが大切です。
3つ目は新陳代謝です。新しい人、新しい力をなるべく入れることです。
特にボランティアのまちづくりですと排他的になりがちで、新しい人が入りにくくなることが多いんですが、
外から来た人や子どもたち、そういった新しい力が常に入ってくるような流れをこれからもつくっていっていただきたいと思います。
講師:法政大学 現代福祉学部 教授 岡ア 昌之氏
これからの地域経営と、まちづくりにおいて、これだけ日本が経済的にもレベルアップしてきた段階では、
景観だけではなくて内面からも美しいまちをどういうふうにつくるかということが今、日本の各地域で問われ始めているのではないでしょうか。
表面的に美しいまちは10年か15年間、一生懸命努力すれば段々できてきます。
ただ、それが内面を伴って風景になってくるには、100年かかるというのが、元東京農業大学学長である造園学者の進士五十八さんの持論です。
一つの風土というか、にじみ出すものになるには1000年かかるといいます。そのことの大切さがまちづくりの基本としてあるのではないかと思うのです。
観光客が自由に散策できるよう、積極的に自分たちの民地、プライベートな土地を開放して、
公と私が融合したような土地をどんどん拡大していこうとしているのが小布施(おぶせ)のオープンガーデンです。
外の人たちとうまく交流できるコモンスペース、プライベートとパブリックが交わるような観念、
あるいはプライベートな財産が公的な性格を持つような意識といったことが、これから深い意味での美しいまちをつくる上では是非とも必要ではないでしょうか。
美しいまちというのは、単に外見が美しいだけではなく、やはり地域の中のさまざまなパワー、いろんなところに向かおうとする力、
ベクトル、それをどういうふうにお互い調整して、できれば一つの方向にまとめていくということが非常に重要で、それが景観や風景につながっていくことになるのではないでしょうか。
そのためには、同じ地域にずっと暮らしている人々への配慮とか、多様性を認めること。多様性を認めるというのは、てんでんばらばらに好き勝手なことをやるということではありません。
一つの基本線、ディシプリン、自分たちの信念というものを持ちながら、それに向かうさまざまな力を統合させていくというのが、本当の多様性だと思います。
報告:赤湯温泉ゆかい倶楽部企業組合 酒井 綾子氏
コメンテーター:東北地域環境研究室 代表 志賀 秀一氏
コメンテーター:作新学院大学 経営学部 教授 橋立 達夫氏
人が来て楽しくなるまちってどういうものかなと考えていたとき、 赤湯にいらっしゃった方から「15時の新幹線に乗るんですけど、10時に旅館を出て、それから何か時間をつぶすところはないですか」と言われました。 レストランや喫茶店はありましたが、「何か楽しめるところをつくりたいね」といって始めたのが「御神坂(おみざか)体験工房はまぁ〜れ」です。 そこからさらに「漬物や料理の体験料をもらうばかりではなく、それ自体が商品にならないだろうか」ということに発展し、赤湯温泉ゆかい倶楽部企業組合を設立しました。 必要に迫られて始まったことですが、「やりた〜い」と声をあげたら、あれよあれよという間に広がって、 補助事業のお話やら、いろんな人がアドバイスをくださり、惣菜工房ができあがりました。
活動が長続きしているのは、女性の方々が、粘り強く、生活感をしっかり持って、 よその方との接触を図ってきたことが一番のポイントではないでしょうか。楽しくないと続きません。 キーワードは、やはり“ 楽しく” ということ。時間の制約など、さまざまなバリアがあるでしょうが、みんなで集まり、笑顔で、人の批判をせず、前向きな意見を出し合い、 周囲からは批判的な考えもあったかもしれませんが、それを乗り越えるパワーを持って、“ 楽しく” をキーワードにされたことで、今日に至っているのかなと思います。
「観光まちづくり」には2つの条件があると思っています。まず、地域に根ざすことです。さまざまな主体が観光に関わっている状況をつくることです。
従来、観光協会の中心になっていた旅館や飲食業以外の商店主の方が歴史をひもといてみたり、
町の中のお気に入りポイントをつなげてツアーを考えてみたり、そんなことをあれこれと考えていくのが新しい観光まちづくりのやり方だと思っています。
「こういうことがあったらいいのにな」と思ったら、そういう人を見つけて引っ張り込んで一緒にやる。そういう流れがいろんなところでできたらいいなと思います。
二つ目は、外の人の力を借りるということです。今の観光は、まちづくりの魅力を感じて観光客が来ます。
その人たちは、いろんなノウハウを持っている人たちですから、その力を地域の中に引っ張り込んで一緒に地域のイメージをつくっていく。
地域ブランドというのは、実は外の人のイメージです。地域の中でいくらつくろうとしてもできるものではないんです。
外の人がイメージを抱いてやって来て、それが裏切られなかったら、だんだんブランドとしてつくり上げられていくんです。
つまりは、外の人との合作です。もちろん地域の人にも、こういうものを見せたいという夢はあるんですが、それを受けて外の人たちがやって来て、
「裏切られなかった。確かにそうだよね」というところから発していくんだと思っています。
全体討議の中から、講師の方々が発言された印象深いコメントを集めてみました東北を愛し、全国の事例を見てきたからこそ紡ぎ出される金言の数々は、まちづくりにとって大切なメッセージが込められています。