新潟県の所管施設として初めてESCO事業を活用。
温室効果ガスの排出削減にもつながる効率面、コスト面での成果に期待が高まっています。
新潟県立がんセンターは、がんの診断と治療にあたる総合センターを全国に先駆けて建設するという県の方針のもと、1961年に発足。1987年には全面改築を行い現在に至っています。「2010年、温室効果ガスの排出削減に向けた取り組みの一環として、新潟県の所管施設としては初めて、新潟県立がんセンター新潟病院(本館棟)でのESCO事業の提案を募集しました。現在の院舎が建設されて20年以上が経過し、空調熱源機の更新が必要だったという側面もあります」と、空調リニューアルまでの経緯を語るのは、新潟県立がんセンター新潟病院経営課の小松靖裕さまです。
新潟県では、応募のあった事業案の中から、従来のガス焚き吸収式冷温水発生器を高効率ヒートポンプモジュールチラーと吸収式冷温水発生器の複合利用に更新するという高砂熱学工業株式会社の事業案を採用。工事期間を経て2012年4月からESCO事業によるサービスがスタートしました。同病院経営課の岩村和久さまは、これまでの運用状況を踏まえ、電気とガスを組み合わせた更新後のシステムを次のように評価しています。「実際に運用してみて特に印象的だったのは、ヒートポンプチラーの冷水を作るスピードの速さです。夏になり暑さが増し始めた時期でも、冷房負荷の上昇にチラーがスピーディーに対応してくれています」。これまでのところ、ヒートポンプチラーの優先的な稼動により、吸収式冷温水発生器の稼動時間が抑えられているという両氏。年間を通しての運用実績はまだないものの、当日の外気温によって立ち上げ時間を調整するなど、省エネルギーにつながる小さな努力の積み重ねもあり、8月時点で、光熱費が2007年?2009年の3ヵ年平均より12.1%削減されました。今後の削減効果にも大きな期待を寄せているといいます。
新潟県立がんセンター新潟病院(本館棟)のESCO事業案が採用された高砂熱学工業さまは、どんな点を実施計画のポイントにしたのでしょうか。同社エンジニアリング事業本部の川崎健二さまは次のように語っています。「エネルギー消費量や二酸化炭素排出量については、10%削減という応募条件がありました。その条件をクリアした上で、省エネルギー、二酸化炭素排出量の削減、イニシャル・ランニングコストといった面からトータルで最もバランスの良いシステムにするにはどうするか、という点をポイントに提案させていただきました。その際、エネルギー源については全電化、全ガス化、電気とガスの複合案を比較検討、その結果最もバランスの良かったのが、高効率ヒートポンプモジュールチラーとガス焚き吸収式冷温水発生機を容量50%ずつという割合で導入し、電気とガスで負荷に応じた最適な運転を行うという方式だったのです。効率の面だけ考えれば全電化が有利ですが、その場合、最大需要電力が増加し、新たな受変電施設が必要になることから、複合案がベストだと判断、ベースとなる部分の熱製造にCOPの優れるヒートポンプチラーを用いて対応するという方式としました。さらに、熱媒ポンプにマトリクスコンバータによる可変揚程制御を導入、高調波対策をするとともに空調の熱搬送エネルギーを削減するというプランも併せて提案させていただきました」。
ESCOサービスの提供がスタートした2012年4月以降、実際の運用実績にはどの程度の省エネルギー効果が現れているのか。同社関信越支店新潟営業所の天野東行さまは事業計画策定時の試算に照らしつつ、次のように話しています。「省エネルギーの効果について、提案の中では15.4%(空調更新以外の事業も含めた全体)の省エネルギー率を見込んでいましたが、現在までのところ想定を上回る実績値を得ています。導入した熱源システム自体の効率の良さはもちろんありますが、立ち上げ時間や運転設備の切り替えといった運用面での工夫、さらには病院さま全体での継続的な省エネルギー努力が反映した結果ではないかと考えています」。