守るんだ、漁村の風景、文化
〜中之作プロジェクト〜

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 地域課題解決に取り組む団体を助成金でサポートする、東北電力の「東北・新潟の活性化応援プログラム」。今年度の助成団体の皆さんが、どのようなことにどんな想いで取り組んでいるのかインタビューしました。

空き家利活用で移住促進。なくしてはいけない中之作地域の漁村風景を守り継ぐ

 地域産業の振興や地域コミュニティの再生・活性化など、地域課題解決のために事業・活動を行う団体を応援する、東北電力の地域づくり支援制度「東北・新潟の活性化応援プログラム」。2023年は、ビジネスの手法を活用して課題解決に取り組む「ソーシャルビジネス部門」、地域の団体等が地域社会の課題解決を目指す「コミュニティアクション部門」の両部門において、それぞれ最優秀賞・優秀賞団体を選定しました。
 コミュニティアクション部門の優秀賞は、いわき市の中之作地域で空き家問題などに取り組む「NPO法人中之作プロジェクト」。そのプロジェクトや今後の展望について、代表の豊田善幸さんにお話を伺いました。

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(左)NPO法人中之作プロジェクト 代表 豊田善幸さん

ーー受賞したプロジェクトの内容についてお聞かせください。

 中之作地域は高齢者が多く、人口ピラミッドは少子高齢化に見られるつぼ型のような形で、このままでは地域を守る人がいなくなり、そこにある風景が消滅してしまいます。今、何をする必要があるかを考えた時に、急ぐべきは不足している層の移住者を増やすこと。つまり若い世代です。
 地域にある空き家は再生すれば活用できる資源。既存の空き家をお試し用ゲストハウスとして整備する他、移住したくなる環境づくりに向け「足りないものは自分でつくる」楽しさ、大切さを知ってもらう企画を用意し、子育て世代をはじめ若い世代の移住促進を図っています。こうした積み重ねにより、中之作の人口分布をほそぼそとでも持続可能な状態にしたいと考えています。

ーーなぜこうした取り組みを始めようと思われたのですか。

 私は建築設計を本業としており、東日本大震災以前は正直まちづくりに興味はありませんでした。震災後、中之作で暮らす高齢女性の方からのリフォーム相談でこの地を訪れた際、その風景に驚かされました。
 津波被害を受けながら、一軒も建物が崩れていなかったんです。「これはどこよりも早く復興が進むだろう」と感じました。しかし思いとは裏腹に、行政の解体助成もあり再生可能な多くの建物が取り壊されていくのを目の当たりにしました。
 風景は一度壊れてしまえば終わり。せっかく震災に耐えた漁村風景が、人の手で失われていくことが耐えられませんでした。そこでリフォーム相談を受けた建物を譲り受け、まずはその再生をきっかけに、素晴らしい漁村風景を後世に伝えていこうと決めました。私自身も家族と中之作に移り住み、地域を元気にする活動をライフワークのひとつにしたいなと。それがすべての始まりでした。

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「建物、人、暮らしがあって初めて風景」。海との素晴らしい関係性を若い世代に発信

ーーこれまでの活動の成果、また大切にしている思いは。

 先にお話しした建物の改修をはじめ、これまでに3軒の空き家の修復を完成させました。最初の1軒はワークショプやギャラリーなどに活用できるレンタル古民家として。2軒目は海が見えるカフェ。3軒目はシェアハウスに生まれ変わりました。これらはすべてDIYでの修繕で、もちろん今進めているお試し用ゲストハウスも同様です。
 これまで数人が中之作に移住してくれた実績がありますが、そこで我々が重要視しているのは、田舎の濃いコミュニティの中で楽しんで暮らせる人を呼び込むこと。「誰でもいいから住んでください」というスタンスではなく、地域づくりに積極的に関わってくれる、高齢者ともきちんとコミュニケーションできる人に住んでほしいと思っています。その意味で、DIYは地域の居住者と移住希望者の関係性を育むいいきっかけになっています。

ーー豊田さんが考える風景保存とは、どのようなものでしょうか。

 設計士として、以前は建物があれば風景が完成すると思っていましたが、大きな間違いでした。おいしい魚を捕る、それらを上手に調理し、みんなで食べるなど、海とかかわる豊かなライフスタイルこそが、ここの漁村風景。人がいなければ、風景とは呼べないのではと気づきました。
 漁村らしい建物があり、文化を受け継ぎ、暮らしがあってこその風景保存。そのためにはやはり若い世代が必要で、海とかかわる楽しさを広める活動にも力を入れています。
 例えば過去には地元の子どもたちを対象に、港にロープを張りSUP・カヤックの体験教室を開催。十数組の親子が参加してくれました。こうした企画や、海と暮らす素敵なライフスタイルをSNSなどでどんどん発信しながら、「中之作?なんか面白い毎日が待っていそう」という興味を喚起したいですね。

設計士としてのノウハウを生かし、空き家所有者と移住希望者のスムーズなマッチングへ

ーー活性化応援プログラムに応募した経緯、また優秀賞に選定された感想をお願いします。

 助成金などのお知らせは行政から定期的に届いており、そのひとつが「東北・新潟の活性化応援プログラム」でした。担当者から「中之作プロジェクトに合うのでは」と紹介されたのが応募のきっかけ。助成金はゲストハウスの改修費用に充てます。今回のような賞に選ばれると、信用につながりますし地域や外部の人に我々の活動を認知してもらえるきっかけにもなります。

ーー活動を続けていく中で、今後の展望についてお聞かせください。

 私自身の実感でもありますが、若い世代が子育てをする上で「中之作ほどいい場所はない」と思っています。住む家はそこそこ広く、目の前に海があり、素晴らしい文化が残っていて、地域のおじいちゃん・おばあちゃんと楽しく暮らせる。この風景を守り、育てていくためにも、空き家の所有者と移住希望者を上手にマッチングできるしくみをつくりたいですね。
 具体的に計画しているのは、設計士としてのノウハウを生かし、放置されている空き家を管理しながら劣化を防ぎ、生活のために修繕の必要があれば所有者に伝え、図面も引き、費用を算出した上で移住希望者に物件を紹介するサービスです。所有者の不安は「改修はしたけれど本当に住んでもらえるのか」という点。ここに我々が間に入ることで、ミスマッチを防止します。移住から約10年が経ち、地域の人も我々を信用してくれるようになったので、中之作と移住希望者を上手につなぐ橋渡し役を務めたいですね。

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