デルタに集え、秋田の未来
〜株式会社アウトクロップ〜

デルタに集え、秋田の未来〜株式会社アウトクロップ〜 イメージ

 地域課題解決に取り組む団体を助成金でサポートする、東北電力の「東北・新潟の活性化応援プログラム」。今年度の助成団体の皆さんが、どのようなことにどんな想いで取り組んでいるのかインタビューしました。

「地域に新しい流れを生み出す」。多様な人、プロジェクトが交差する先駆的な複合拠点を秋田に

 地域産業の振興や地域コミュニティの再生・活性化など、地域課題解決のために事業・活動を行う団体を応援する、東北電力の地域づくり支援制度「東北・新潟の活性化応援プログラム」。2023年は、ビジネスの手法を活用して課題解決に取り組む「ソーシャルビジネス部門」、地域の団体等が地域社会の課題解決を目指す「コミュニティアクション部門」の両部門において、それぞれ最優秀賞・優秀賞団体を選定しました。
 ソーシャルビジネス部門の優秀賞は、秋田市の映像制作会社「株式会社アウトクロップ」。そのプロジェクトや今後の展望について、代表取締役の栗原エミルさんにお話を伺いました。

「地域に新しい流れを生み出す」。多様な人、プロジェクトが交差する先駆的な複合拠点を秋田に イメージ1

株式会社アウトクロップ 代表取締役 栗原エミルさん

ーー受賞したプロジェクトの内容についてお聞かせください。

 秋田市内にある4階建てマンションをフルリノベーションし、カフェや宿泊スペース、シェアオフィスなどの機能がある複合拠点「Atle DELTA(アトレデルタ)」を2024年4月に開設します。キーワードは社会課題解決、共創、国際交流。県民だけでなく、海外からのバックパッカーなど業種や世代、国籍を超えて人が集まり、地域課題の解決策や共創のきっかけが生まれる場を目指しています。
 シェアオフィスは秋田にもありますが、こうした共創の場はまだありません。偶然居合わせた人同士の会話や交流、秋田で同時多発的に起きている多様なプロジェクトの交差から、セレンディピティ、すなわち思いがけない価値創造につながったりと、ここから地域に新しい流れを生み出せればと思います。

「地域に新しい流れを生み出す」。多様な人、プロジェクトが交差する先駆的な複合拠点を秋田に イメージ2

ーー映像制作を本業とするなかで、なぜこの事業を立ち上げようと思われたのですか。

 「映像で地方を掘り起こそう」という思いのもと、2020年から秋田の各地域、多くの人を取材・撮影してきましたが、さまざまな課題を目の当たりにするなかで、解決に向けて映像ができる役割は本当に限られると痛感しました。このままでは、我々のやろうとしている取り組みが衰退のスピードに追い付かず、「何もできずに終わってしまうのでは」と危機感を抱きました。
 そこで模索したのが、共創での発展を目指せないか、ということです。我々だけでは解決できない課題に立ち向かうためには、仲間が必要です。そして、仲間を集めるためにはリアルな場も必要。こうした共創の場を秋田につくろうと思案していた矢先、物件のオーナー企業から「この建物を活用しないか」と提案を受けました。思いと物件紹介のタイミングが合致したことから事業化に乗り出しました。

「地域に新しい流れを生み出す」。多様な人、プロジェクトが交差する先駆的な複合拠点を秋田に イメージ3

共創によるアクション、チャレンジで閉塞感漂う雰囲気を変えていきたい

ーー開設後はどのような方針での運営を考えていますか。

 例えばカフェは地域と世界が出会い、交流する場に。宿泊スペースはワーケーション利用や移住体験を。ワークスペースは業種を超えた協業や若い世代がスキルを生かせる場として、それぞれ機能を持たせていますが、施設全体のコンセプトは点と点を結び、新しい線や価値をつくり出すこと。運営はもちろん我々が主導で行いますが、ここに関わるみんなで理想の施設をつくり上げていきたいと考えています。
 施設自体は2024年4月に開設しますが、その時点では「Atle DELTA」は完成していません。利用者・宿泊者も含めた関係者みんなで施設を徐々にアップデートさせ、5年後に「理想的な施設になったね」と思えるようにしたいのです。そのために、あえてここを活用するみんなの「関わりしろ」を多く残しています。

共創によるアクション、チャレンジで閉塞感漂う雰囲気を変えていきたい イメージ1

ーー課題先進県と言われる秋田で、いちばん取り組みたいことは。

 私は京都府出身で、大学時代から秋田を生活拠点にしている、いわゆるよそ者です。秋田には人口減少をはじめ確かに多くの課題がありますが、「秋田は課題先進県」と言われ過ぎた結果、漂っている閉塞感のほうが問題なのかなと感じています。「どうせ無理」「やっても無駄」とネガティブな声もよく聞かれ、この雰囲気はどうにかして変えたいですね。
 我々のような若い世代が新しいチャレンジに積極的になり、仮にそれが大きな成果に結びつかないとしても、小さな成功体験をたくさん生み出すことで雰囲気を変えていければ。それが自分が秋田にいる理由でもあり、一生かけてチャレンジしたいテーマです。いつか「面白い挑戦をしている人が多いよね、秋田って」というイメージを抱かれるようになれば最高ですね。

心動かされるチャレンジの先に、秋田の未来を

ーー活性化応援プログラムに応募した経緯、また優秀賞に選定された感想をお願いします。

 大学時代、東北電力主催の学生ムービーコンテストに2度応募し、それぞれオーディエンス賞、最優秀賞を受賞した経験があります。その際の喜びがずっと心に残っており、起業後も東北電力の地域貢献関連の情報は常にチェックしていました。「東北・新潟の活性化応援プログラム」は、まさに我々がやろうとしている事業が対象で、迷うことなく応募し、結果、ありがたい評価をいただきました。弊社のようなベンチャー企業が新事業を始めるにあたり、大企業のバックアップがあるか否かで信頼度が変わってきます。また、助成団体同士の横のつながりや、審査員の先生方と接点ができたのもとても大きいです。このつながりを、今後さらに生かしていきたいですね。

ーー「Atle DELTA」を軸とした今後の展望についてお聞かせください。

 プレスリリース、記者会見でこの事業を発表した際、映像制作会社が複合拠点を運営という珍しさもあってか、多くの反響がありました。それだけ大きな期待を感じますし、同時に身の引き締まる思いです。
 重要なのはハードの整備ではなく、ここからいかにして理想型に近づけていけるか。イベントをはじめソフト面でも多くの人が交差できる企画を仕掛けていこうと思います。
 ただ、自分一人の力では何もできません。「自分が秋田をどうにかしなければ」という使命感は強く持ち過ぎず、我々がやりたいこと、目の前にある心動かされるチャレンジを積み重ねた先に、気がつけば雇用機会が生まれたりと、結果として秋田のためのプロジェクト・場になっていれば。そんな未来を思い描いています。

心動かされるチャレンジの先に、秋田の未来を イメージ1