■火力部門■新潟火力5号系列 水素混焼実証開始〜「火力の脱炭素化」への挑戦〜

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 東北電力の火力部門では今年10月から、新潟火力発電所5号系列において水素混焼実証を開始しました。現地で行われた水素混焼試験の模様や関係者へのインタビューを交え、「火力の脱炭素化」に挑む火力部門の取り組みを深掘りします。

事業用ガスコンバインドサイクル発電所では国内初の試み

 東北電力グループは、2021年3月に「カーボンニュートラルチャレンジ2050」を策定し、「再エネと原子力の最大限活用」、「火力の脱炭素化」、「電化とスマート社会実現」の3本の柱により、カーボンニュートラル実現に向けた取り組みを進めています。
 この実現に向けて、東北電力火力部門では「火力電源の脱炭素化の実証・研究」に取り組んでいます。具体的な施策の一つとして、天然ガスを燃料とする新潟火力発電所(新潟市)において、燃焼時にCO₂が発生しない水素やアンモニアの混焼実証を進めることとしていました(2021年7月公表)。

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 実証で使用する燃料に水素を選定したのは、水素は少量であれば既設の燃焼器の改造を伴わずに天然ガスとの混焼が可能であり、アンモニアに比べて早期に着手できることが理由です。
 火力部および新潟火力発電所では設備メーカーと連携しながら、実証に向けた諸準備を進め、当初の予定(2024年度の実証開始)を前倒しし、今年10月から実証を開始しました。この実証の一環で先般行われた水素混焼試験は、事業用ガスコンバインドサイクル発電所としては国内初の試みとして注目を集めています。

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計2回の水素混焼試験に成功!

 水素混焼試験は10月13日と19日の2日間行われ、19日の試験の様子を報道機関に公開しました。当日は火力部、新潟火力発電所、協力会社、メーカーなど、関係者約20名が対応にあたりました。
 発電所構内に設置した水素供給設備から、5ー1号の燃料ガス配管に水素を供給。あらかじめ少量の水素(混焼率:体積比1%程度※1)を天然ガスに混合し燃焼させることで、安定的な運転ができるか確認が行われました。水素の取り扱い・性質などの水素混焼の知見を得ることがねらいです。
 水素供給設備は水素を供給する配管、緊急時に水素供給を遮断する遮断弁、水素の流量を調整する流量調整弁および圧力上昇時の安全弁などで構成され、水素ボンベ20本を連結したカードルから配管を通じて、水素を供給する仕組みです。

※1 天然ガスとの体積比で1%程度の水素を燃焼した場合には、天然ガスの使用量およびCO₂の排出量を0.3%程度削減可能

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 中央制御室と水素供給設備が設置された現場の2箇所で運転員同士が連絡を取り合いながら試験を実施。中央制御室では機器操作や記録採取、進捗の管理・記録、数値の確認などを、現場では手動で弁を操作し水素の流量調節などを行いました。発電所側のプロジェクトリーダーを務める、東新潟火力発電所(コンバインド技術)照井副調査役※2を中心に、関係者で声を掛け合い一つひとつ手順を確認しながら試験を実施。1時間程度燃焼を行いましたが、燃焼状態に異常は確認されず、無事試験が終了。2日間の試験において成功を収めました。

※2 ブロック運用により、新潟火力発電所に常駐し勤務

関係者に聞く〜火力の脱炭素化に向けた大きな1歩〜

 今回の混焼試験に携わった、火力部(火力企画)野辺主任、東新潟火力発電所(コンバインド技術)照井副調査役にお話を伺いました。

ーーー水素混焼の意義について、あらためて教えてください。

(野辺主任)火力発電所は、調整力として電気を安定的に供給する役割があり、将来的に再エネの導入が拡大した場合も必要な電源と考えられます。一方で、既存の燃料は燃やした際にCO₂が発生するため、水素を燃料として利用し、将来的にカーボンニュートラルな発電所とすることは、電気の安定供給と地球温暖化対策の両面で大きな意義があります。
 今回は混焼率こそ体積比で1%と小規模なものですが、将来的な火力の脱炭素化に向けた大きな一歩であると考えています。

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火力部(火力企画)野辺主任

ーーー2024年度から実施予定の実証を前倒しできたのはなぜでしょうか。また、実証までの準備で苦労した点や関係者でどのように連携されたかなども教えてください。

(野辺主任)本実証は2021年度から机上検討を開始しており、私は主担当として、設備メーカーと何度も打ち合わせをしながら、新潟火力で実施可能な試験の方法を練り上げました。現時点では大量の水素が調達できないという制約の中、他社に先駆けて実現可能な試験方法の検討を進めた結果、体積比1%の混焼試験であれば2023年内に実施可能な見込みが得られました。
 事業用ガスコンバインドサイクル発電として国内初の取り組みで、我々としても未経験の取り組みであったことから、所轄官庁への法的な対応の確認、水素混焼に適した試験設備の検討などの対応を、手探りながら一つひとつ積み上げて混焼に向けた準備を進めていきました。
 水素混焼試験に必要な試験装置を現地に設置するために、2022年11月から設備メーカー、工事会社および発電所との定期的な打ち合わせを開始しましたが、発電所がプロジェクトチームを構築して対応いただいたおかげで、スムーズに連携を図れました。これらにより、当初予定していた2024年度からの実証を前倒しすることができました。

(照井副調査役)水素混焼実証の実施内容については、2022年11月に火力部から説明を受け、発電所としてこの一大プロジェクトに機動的に対応できるよう、翌月には現地プロジェクトチームを構築して対応しました。
 私は本プロジェクトの現地のリーダーを務め、水素混焼実証の研究主管箇所である火力部との連絡窓口や発電所全体の進捗管理・調整などを行いました。発電所では主に現地工事に係る事項をコンバインド技術G、系統操作・運転監視に関わる事項をコンバインド発電G、対外対応・事務局業務全般を運営企画Gが担当しました。火力部・設備メーカー・工事施工会社を含めた関係者が月1回の打ち合わせなどで相互に情報を共有しながら、着実に計画を進めていきました。

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東新潟火力発電所(コンバインド技術)照井副調査役

ーーー水素を扱う難しさはどのような点にありますか。

(照井副調査役)火力発電所では、発電機の冷却媒体として水素を使用しており、日ごろから取り扱っているガスではありますが、燃料として(燃焼させて)利用する経験は初めてだったことから、普段より気を遣いました。
 また、水素は燃えやすく、また、ガスの中でも密度が最も小さく、外部へ漏れやすい特徴もあるため、装置の設置においては気密試験を確実に実施し、各部に漏れがないことを確認の上、水素充填の際にもガス検知器を使用して漏洩確認を行うなど、安全に細心の注意を払いました。
 その他、設備的な面では、水素は燃焼する速度が速い性質があり、燃焼器内で火炎が本来の安定燃焼位置から上流側へ遡上するフラッシュバック(逆火)という現象を引き起こしやすく、場合によっては燃焼器を損傷させるリスクもあります。今回は、水素混焼率が小さく、フラッシュバック発生などの懸念はありませんでしたが、燃焼状態は常に監視し、万一の設備異常の発生に備えていました。

ーーー実用化に向けた課題や今後の展望について教えてください。

(野辺主任)今回の混焼試験では、体積比1%の混焼を1時間行うために水素ボンベを20本用意しました。水素の体積比1%は熱量比では0.3%に相当するため、仮に新潟火力5ー1号で100%の水素専焼を行う場合、1時間あたり、水素ボンベ約6,600本分に相当する大量の水素が必要となります。現時点ではこのような大量の水素を安定的に供給するサプライチェーンが構築されておらず、火力発電所での水素利用実用化には、その構築が一つの課題となります。
 また、混焼率を増加させる場合、ガスタービン燃焼器などの設備を水素用に改造する必要があることも課題であり、現在、設備メーカーが開発を進めています。水素の輸送・貯蔵面では、液化水素での貯蔵、アンモニアやMCHという物質に変換して輸送・貯蔵するなどの方法がありますが、いずれ方法でも技術的な課題が存在します。
 これら課題の解決に向けた対応を行うとともに、火力の脱炭素化に関する国の支援制度の動向などもウォッチしながら、実用化に向けた検討を進めていきたいと考えています。

ーーー火力の脱炭素化について、それぞれのお立場からどのような想いで取り組んでいく考えでしょうか。

(野辺主任)火力発電所での水素混焼含め、火力の脱炭素化には多くの課題があります。
 しかしながら、当社には多くの課題を乗り越え、東新潟火力にて事業用コンバインドサイクル発電設備の営業運転を国内で初めて実現したという実績や経験があります。火力の脱炭素化は課題も多く、チャレンジングな取り組みですが、不可能なものではありません。今回、事業用ガスコンバインドサイクル発電設備として国内初の水素混焼試験を実現したように、また、過去に国内初のコンバインドサイクル営業運転を実現したように、一つひとつの課題を着実にクリアし、火力の脱炭素化実現に向けて歩みを進めていきたいと考えています。

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(照井副調査役)火力の脱炭素化にはアンモニア利用やCCUS※など色々なアプローチがありますが、ガスコンバインド発電所に所属する私としては、今回経験した水素混焼の検討に今後も携わり、脱炭素化の一助となれるように取り組んでいきたいと思っています。
 なお、今回実証試験で使用した水素供給装置は、残置して次年度も活用する計画がありますので、その計画にもぜひ携わり、将来的な大型ガスコンバインドプラントでの実装に際して有用な知見が得られるように、微力ながらも尽力したいと考えています。

 ※CCUS:Carbon dioxide Capture,Utilization and Storage(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)

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◇取材後記◇
 新潟火力発電所は1950年代の激増する電力需要に対応するため、当社で初めて日本海側に建設された火力発電所であり、1963年に1号機が運転を開始してから、今年で60年の節目を迎えました。
 1ー4号機、6号機(緊急設置電源)は既に廃止済みですが、今回、混焼試験を行った5号系列は2011年7月に運転を開始し、東日本大震災後で供給力が不足する中、貴重な供給力として貢献するなど、現在も安定供給に寄与しています。取り巻く環境の変化に的確に対応し、積み重ねられた節目の年に、LNG火力発電所のカーボンニュートラルに向けた大きな一歩を踏み出しました。
 取材を通じて、「コンバインドサイクル発電に先駆的に取り組んできた歴史や培った経験・技術を生かし、火力の脱炭素化に挑戦していく」という火力部門の皆さんの矜持やチャレンジ精神に感銘を受けました。
 今後も実証は継続されますが、デジタルBRIDGEでは火力部門の挑戦を追いかけ、皆さまにお伝えしていきます。

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