企業グループ紹介「OneTeam!!」相馬共同火力発電(株) 新地発電所〜使命感が支えた早期全面復旧〜

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 2011年の東日本大震災、2021年と2022年の計3度の地震に見舞われながらも、所員・関係会社が一丸となり早期復旧を目指しました。3度の地震から得た経験を前向きに捉え、技術継承や次の課題解決に取り組んでいる皆さまにお話を伺いました。

3度の地震に見舞われた新地発電所

 2022年3月の福島県沖地震で大きな被害を受けた相馬共同火力発電株式会社の新地発電所。1・2号機のボイラーやタービンなど発電設備そのものに甚大な被害を受けながら、今年1月13日、工期を大幅に短縮して全面復旧を果たしました。
 新地発電所は2基で計200万キロワットの電力を供給する大型電源。「電力の安定供給」に欠かせない国内最大級の石炭火力発電所を度重なる地震が襲います。発電所内の地震計で測定された揺れの加速度は、東日本大震災が372ガル、2021年2月の福島県沖地震が444ガル、そして2022年3月の福島県沖地震が572ガル。もっとも威力が大きな3度目の地震発生は、2度目の全面復旧からわずか3カ月後の出来事でした。  相次ぐ地震に見舞われながらも、早期復旧を目指し、この経験を明日に繋ごうと奮闘する新地発電所の道のりを取材しました。

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発電所全体に及んだ被害

 2022年3月16日23時36分、福島県沖でM7.4の地震が発生しました。その時、新地発電所にいた所員は運転員5人だけ。まもなく津波注意報が発令され、所員たちは焦る気持ちを抑えながら社宅や自宅で待機せざるを得ませんでした。
 津波注意報が解除されたのは午前5時頃。田鹿元昭副所長が発電所に駆けつけると、事務所は天井から水が漏れ、固定された壁面書棚も倒れていました。発電所の被害の大きさを想像し、不安な気持ちになったと言います。
 復旧の陣頭指揮を任されたのは、翌月に着任した高根澤利夫所長。「ボイラーは、炉の内壁に487本の配管が通っています。『全数破断』と報告を受けた時には衝撃を受けました」。
 ボイラーやタービンなどの発電設備に加え、揚炭機(石炭船から石炭を荷揚げする機械)や送炭設備も倒壊するなど、被害は3度の地震のなかで最も大きく、発電所全体に及んでいました。
 掲げた復旧目標は、1号機が年内、2号機が年度内。田鹿副所長は「工程を積み上げたのではなく、『いつまでに復旧させなければならないか』という必要性から割り出した『チャレンジ目標』でした」と話します。

発電所全体に及んだ被害 イメージ1
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主な被害箇所

広範囲の点検が求められたタービン

  伊藤達也主任(機械G)は、タービン設備のメンテナンス管理を担当しています。
 「3度の地震のなかで最も影響が大きく、復旧作業が『建設工事並み』だったのが、高速回転するタービンを支え、回転の中心となる軸の位置と向きを固定する『軸受台』の取替工事でした」。
 苦労したのは、点検範囲と優先順位を決めること。1号機で不具合が発見されれば2号機の点検も必要ですが、丁寧に点検すれば工程に大きな影響が出るうえ、多くの作業員を確保する必要もあります。そこで、簡易的な点検で異常がなければ工程を進めるなど、メーカー担当者などとも慎重に調整を重ねながら工事は進められました。
 そもそも1・2号機を同時に分解点検する事態は想定されていません。分解した機器の保管場所の確保も大きな課題でした。そこで、最初に組み立てる機器を屋内に配置し、屋外に設置した仮置き用のジャバラハウスには、後で組み立てる機器を保管しました。また、大きな機器は、重要部分をコーティング材で保護するなどの処置を行い、屋外に保管したそうです。
 「今回得た経験を後輩へ残すために、点検記録の整理やどうしてその作業を行ったのかなどの経緯の整理を行い、技術力の継承をしていきたいと考えています」。

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タービン設備の軸受台が変形

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伊藤主任のタービン設備の点検の様子

早期復旧の原動力は『使命感』

 新地発電所は1号機が2022年11月13日、2号機が2023年1月13日に復旧を果たします。「チャレンジ目標」をさらに早めた驚異的な「早期復旧」でした。
 「くじけずに復旧できたのは、公益事業を担う使命感が根底にあったからだと思います」と田鹿副所長。早期復旧するために何ができるのか。ひとりひとりが懸命に考え、実行しました。例えば、通常、ボイラーの配管点検では、通常1カ月ほどかけて足場を組みます。しかし、今回は炉内空間にドローンを飛ばして被害状況を把握することで、必要部材の発注を素早く行うことができました。
 「とにかく冬に間に合わせる!」という強い気持ちは、メーカー担当者も同じです。「『全数破断』したボイラーの部品も、通常はあれほど短期間で揃いません。また、東北発電工業の方々は、原町火力発電所の復旧工事をしながら、我々の復旧工事に携わってくれました」と話す高根澤所長。
 高い煙突は、地域のどこからでもよく見えます。
 「復旧して煙突から『けむり(水蒸気)』が上がると、地域の方々から「良かったね」と声をかけていただいて・・・。発電所に愛着を持っていただいているのだなと感じました」。

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復旧後も続く課題

 大きな衝撃を与えた映像が残っていました。1,200トン超の揚炭機2機が一瞬のうちに崩れ落ちたのです。運転席に人が乗っていたり、石炭船側に倒壊したりすれば、大惨事になるところでした。
 鈴木芳輝主任(燃料G)は、発電燃料である石炭の運用・管理を担当しています。大きな痛手となったのは、スタッカ/リクレーマ(貯炭場の石炭を払い出す送炭設備)1機の倒壊。3度の地震で初めてのことでした。
 貯炭場の一部から石炭を払い出せなくなったものの、そのまま放置すれば、石炭は発火の恐れもあります。鈴木主任は石炭荷役関係会社などに協力をお願いし、重機や大型トラック、熟練運転員を融通してもらいました。
 今も揚炭機2機、スタッカ/リクレーマ1機は使うことができません。荷揚能力は半減し、貯炭能力は75%。揚炭機2機をフル稼働しても1日の石炭使用量とほぼ同量しか荷揚げできず、在庫を確保することが難しい状態です。
 「既存の設備に不具合が起きれば、発電所の安定操業への懸念があります。石炭船の入船タイミングを調整したり、スタッカ/リクレーマの役割を果たす仮設移動コンベアを設置したりするなど、課題解決に向けて取り組んでいます」。

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石炭船から石炭を荷揚げする設備(揚炭機)

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倒壊したスタッカ/リクレーマ

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石炭の運用・管理を担当する鈴木主任

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仮設積付移動コンベアは石炭を払い出せなくなったスタッカ/リクレーマの役割を担う

探訪後期

 印象的だったのは、新地発電所の皆さんが3度の地震から得た経験を前向きに捉えていたことです。高根澤所長は「とにかく冬に間に合って良かった。一安心ですね」と話しながらも、すでに次を見据えていました。
 「地震以外にも、今後、待ち受ける課題はたくさんあります。少しでも工期を縮めるために、どんな工夫ができるのか。一人一人が頭のなかでシミュレーションしながら、復旧作業にあたった経験は、必ず役立つだろうと思います。特に『電源のカーボンフリー』は会社の存続にも繋がる厳しい課題でもあるので、今のこの設備を生かしながらどう工夫できるか。今回の経験を糧に道を拓いていきたいと考えています」。
 職種の垣根を越え、メーカーやグループ企業とともに「チーム相馬共火」で成し遂げた早期復旧。そのかげには、電力DNAとも言える「使命感」が燃えていました。