■火力部門■最新鋭の上越火力発電所1号機が営業運転開始!

■火力部門■最新鋭の上越火力発電所1号機が営業運転開始! イメージ

 2022年12月1日、最新鋭の火力発電所「上越火力発電所1号機」が営業運転を開始しました。世界最高の熱効率63.62%を達成。高い経済性と環境負荷低減を実現していきます。

西村上越火力発電所長にお話を聞きました

問.運転開始を迎え、今の率直なお気持ちをお聞かせください。

答.様々な関係者の皆さんへの感謝の気持ちでいっぱいです。
 私が赴任したのは約2年半前。コロナ禍が始まったばかりで、県を跨ぐ移動がなかなかできない環境下でした。そのようななかで、メーカーや工事会社からは、その時々の感染流行エリア外から人員を集めていただくなどの配慮をいただきました。関係する皆さんからのご協力の結果、コロナ禍というこれまで経験したことがない厳しい状況にあっても、工事期間を当初予定より半年短縮することができました。電力需給が一番厳しくなる厳冬期前に運転を開始することができ、所員一同、嬉しく思っています。

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 上越火力の特徴の1つは、「世界最高水準となる熱効率63%以上」を達成したこと。三菱重工と共同開発した「強制空冷燃焼器システム採用次世代ガスタービン」がその実現に大きく寄与しています。私自身が共同研究メンバーの一人として、15年ほど前から長年研究に携わってきました。苦労の連続でしたが、お互いアイデアを出し合った結果、上越火力に導入される燃焼器の基本形となる「クローズド強制空冷燃焼器」が誕生しました。研究段階のものが実機として稼働し、目標を達成する。非常に感慨深いものがあります。

問.あらためて、上越火力の強みや価値を教えてください。

答.まず1つが「世界最高水準となる63%以上の熱効率」です。当社ではこれまで、新仙台火力発電所が最新のコンバインドサイクル火力でしたが、こちらで60%以上。約3%も向上しています。それほど変わらないと感じる方もいると思いますが、1%向上させるのも大変なことです。最新の技術を実用化し、商業運転まで成立させるのに何年もかかります。
 また、現在の燃料価格と電力市場価格の高騰という状況下では、この数パーセントの差が、さらに大事になります。少ない燃料で発電できる、つまり、より低廉な電力を供給できるということです。もちろん、効率が良いということはCO2排出量の削減にも寄与しますので、高い環境性も有しています。

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 次に、非常に高い「運用性」です。電力需要や再生可能エネルギーの出力変動に合わせた調整および起動停止を速やかに行うことができます。上越火力では、これまでのコンバインドサイクル火力(三菱重工製)に比べ、負荷変化への対応を3倍の速度で行うことができ、さらに起動時間を3/4に短縮しています。
 これを実現できたのも次世代型ガスタービンのおかげ。少し専門的な話ですが、ガスの燃焼温度が1500度以上の場合、通常は蒸気で燃焼器を冷やします。ですが、上越火力では圧縮した空気を強制的に送り込み冷却しています。
 さらにタービン翼環にも強制冷却を行い、タービン翼のクリアランスコントロール※も実施しています。空気冷却により起動時間が短くなり、発電の上げ下げスピードが速くなるのです。研究開発当初に「ガス火力の運用が『ベース』から『ミドル』に変わり、将来はその変化がより進むだろう」と予想し、空冷にこだわりました。振り返ると、その判断で良かったと思っています。
 ※クリアランスコントロール
 今回、タービン翼環(タービンを収めるケース)への冷却空気を調整する強制空冷方式を開発・実装した。タービン翼とタービン翼環のクリアランス(隙間)の調整は、効率の維持に重要となる。上越火力では、タービン翼環への冷却空気を運転状態に合わせて調整することで、起動・負荷変化時にはクリアランスを広く、定格負荷運転中はクリアランスを狭くするというクリアランスコントロールが可能となり、タービン効率を維持しながら、必要なクリアランスを確保できるようになった。

問.上越火力は、保守・運用面でも最先端の取り組みを行っていると聞きました。

答.当社火力として初の、ロボットやAI技術を活用した設備パトロールの自動化システムを導入しました。
 GPSを受信しない環境下でも、発電所内を自律飛行できるドローンと、自律移動できるロボットそれぞれにカメラを搭載。取得する画像データと、RFIDによる非接触の振動データを、AI技術により自動解析し、設備の異常を検知します。

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ドローンによるパトロール

 膨大な設備を人の目や手でひとつずつきめ細かくパトロールしているため、多くの時間と労力がかかっていましたが、ロボットやAI技術を用いて支援することで、効率的にパトロールを実施することができます。
 さらに、人間以上の異常検知が期待でき、データとして見える化できることなど、多くのメリットが見込まれます。完全に人間の業務を代替するものではなく、補助するというイメージです。
 本プロジェクトは、2017年から検討を開始。廃止プラントの新潟火力4号機と秋田火力3号機にて試験・改良を続けてきました。これまでの努力が実を結び、最新鋭の取り組みをこの上越で導入することができ、嬉しく思います。

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陸上ロボット・ドローンによるパトロール

 また、パトロールで現場に行く所員にウェアラブル端末を装着させ、室内に残る所員とリアルタイムに情報を共有します。上越の運転員は3人という少数精鋭。現場に行くのは1人です。例えば、業務経験の浅い若手社員がひとりでパトロールに行き、その際にトラブルにあった場合でも、経験豊富なベテランより的確に指示を受けられることから、負担感の軽減に寄与できると考えています。
 その他にも、通常は蒸気タービンの下(地下)に設置する復水器を水平横置きにしたり、中央制御室のディスプレイ画面をプロジェクター投影したり、執務室をフリーアドレスにしたり・・・と、随所に最新技術や知見を詰め込んでいます。社内外の火力関係者の方が視察に来られるのですが、まず「発電所っぽくない」「すっきりしている」と見た目について皆さん一様に驚かれます。
 ハード面だけでなく働き方改革などソフト面にも配慮し、生産性の向上に努めていきたいです。

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中央制御室

問.最後に読者の皆さまへメッセージをお願いします。

答.皆さまのおかげで、あらゆる面で最新鋭の技術を詰め込んだ発電所を建設することができました。建設時の所内スローガンは「燃やせ 上越魂! 造るぞ 世界に誇れる発電所!」。このプラントを最大限活用し、さらに良い発電所に進化させていきます。
 そして、上越火力は地域の皆さんのご理解がなければ建設できなかった発電所です。世界最高水準の熱効率を持つ発電所が身近に存在するということに誇りを持っていただけるよう、また地域から愛され続ける発電所となれるよう、地域に寄り添う取り組みもしっかりと行っていきたいです。

近隣の小学校とは、子どもたちから梁となる鉄骨に絵を描いてもらったり、所員がエネルギー出前講座に訪問するなど、交流を深めている。

編集部より:取材は、2022年12月上旬に実施しました

担当者インタビュー

 上越火力発電所建設所 発電技術課 小野辰陽さん
  担当業務:機械関係。排熱回収ボイラー、高中圧給水ポンプ

 

 上越火力発電所建設所 発電技術課 郡司祐也さん
  担当業務:電気関係。特高・通信設備

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郡司さん(左)と小野さん(右)

問.無事運転開始となりました。これまでで印象に残っている業務はありますか。

答.<小野さん> 納入される排熱回収ボイラー機器(以下SG)が仕様書通りか、きちんと据え付けられているかを確認することが主業務でした。
 配管は、「溶接事業者検査」により、国内の技術基準を満足しているか確認するのですが、その検査を担当するのが初めての経験だったため苦労しました。さらに、SGの伝熱管群は全て中国製であり、アメリカの規格(ASME規格)に基づいていました。確認件数も多く、先輩からいろいろと教わり勉強しながら進めていきました。

ポンプ等をパトロールする小野さん

<郡司さん> GIS(ガス絶縁開閉装置)などの特高受電設備や通信設備は、メーカーだけでなく、社内外の様々な関係者とやりとりが発生します。一から設備をつくるということもあり、その関係者数は想像以上でした。業務内容も初めてのことばかり。特に、設備仕様の調整や現地工事の調整は一筋縄では行きませんでした。送電線と発電所の開閉所をつないで充電する日は決まっていましたので、絶対にその日に間に合わせるよう、漏れなく念入りに確認や調整を行いつつ、皆さんの協力を得ながら進めた結果、無事予定日に間に合わせることができました。

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GIS据付

変圧器などをパトロールする郡司さん

<小野さん> <郡司さん> 建設全体に影響したのは、新型コロナに加え、2021年1月の大雪です。上越はもともと豪雪地帯なのですが、尋常ではない雪で工事がストップし、遅れが発生してしまいました。メーカーや土木会社などと協力し、早出・深夜残業、2交替勤務により遅れを取り戻しました。

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2021年1月豪雪

問.営業運転開始を迎え、一言お願いします。

答.<小野さん> 自分の業務が需給や経営に貢献できるとの意識で高いモチベーションを持ち、ここまで臨んできました。今は「よくここまで来たな…」という想いです。私が赴任した時、この地は真っ平らでした。そこから、発電所ができた。凄く感慨深いです。会社人生において、「発電所の建設に当初から関与した」ことは非常に誇れることですし、自信もついたと考えています。

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排熱回収ボイラーを背にする小野さん

 私は「1日1回は現場に行く」と決め、パトロール時は「もう一声掛け運動」を行い、メーカーや作業員の方に分からないことは聞き、危険と思う場所は一緒に話し合い、建設知識の向上とゼロ災を目標に行動してきました。また、建設にあたり、他の火力発電所から貴重な情報を都度頂戴していました。あらゆる関係者の皆さまにこの場を借りて、感謝申し上げます。
 そして、プラントの安定運転を通じた低廉な電力供給、経営への貢献を目指していきます。なお、次の目標は、実証試験中のDXの導入に向けた検討。DXは点検費用の削減に寄与します。営業運転開始で終わりではなく、運営の高度化などさらなる改善を目指し、努力していきたいと考えています。

<郡司さん> 大型の変圧器が船で運ばれて構内を走る姿、初めて充電する時の緊張感、今でも鮮明に記憶に残っています。また、各種工事工程を調整し、建設工事最大のミッションである営業運転開始前倒しを実現することができ、まずはホッとしています。
 発電所建設という貴重な経験を生かし、今後の業務に取り組んでいきます。なお、次の目標は、国の安全管理審査を無事に終えることです。引き続き高いモチベーションを維持しつつ業務に励んでいきます。

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変圧器を背にする郡司さん

編集部より:取材は、2022年12月上旬に実施しました

世界最高の熱効率63.62%を達成!

 上越火力1号機は、営業運転開始後の性能評価の結果、熱効率63.62%を達成し、第三者機関により世界最高の熱効率として認定を受けました。
 火力部門では、低廉な電力の安定供給と環境負荷の低減に向け、引き続き取り組んでいくこととしています。